~中小企業の経営者の皆さんへ~
(全3回・第2回)
前回は、国税庁が検討している自社株の新しい評価方法についてご紹介しました。
今回は、その税負担を軽減するための制度である「事業承継税制」についてお話しします。
■ 事業承継税制って何?
中小企業の経営者が、子供などの後継者に自社株を引き継ぐ際、多額の相続税や贈与税が発生し、事業承継の妨げになることがあります。
そこで設けられているのが「事業承継税制」です。
一定の条件を満たせば、自社株にかかる相続税や贈与税の納付を猶予してもらえる制度です。
特に2018年に導入された特例措置では、対象となる株式について、相続税・贈与税の全額が納税猶予の対象になります。
なかなか強力な制度です。
しかし、ここで注意していただきたいことがあります。
■ 税金が免除されるわけではなく、あくまでも「いったん」猶予
事業承継税制は、最初から税金の免除が約束される制度ではありません。
あくまでも「いったんは納税の猶予」です。
そのあと、一定の条件を満たせば将来的に免除される仕組みが用意されてはいますが、要件を満たさなくなれば、猶予されていた税金を納付しなければならない場合があります。
しかも、制度の適用を受けるための手続きは複雑です。
承継後も長期間にわたり、届出や制度上の要件を管理していかなければなりません。
相続税を納付しなくても済むというメリットは大きいのですが、将来の納税リスクを背負ったまま経営を続けることに、心理的な抵抗を感じる経営者も少なくないでしょう。
■ 実際、どれくらいの会社が利用しているのか?
10月9日の政府税制調査会で、財務省が興味深い資料を公表しました。
2024年分の相続税申告実績をもとに、オーナー一族が過半数を保有するような会社の株式相続について、事業承継税制の適用状況を調べたものです。
財務省の資料から私が計算すると、適用割合は全体で約2.7%です。
ただし、この数字は相続税申告をした特定同族会社株式に関するもので、生前贈与による利用は含みません。また、制度の対象とならない相続なども含まれています。
それでも、興味深い数字ではないでしょうか。
さらに注目したいのは、株式評価額が高い会社の相続でも、必ずしも制度が広く利用されていないことです。
相続した自社株の評価額が、
・1億円超~3億円以下:11.7%
・3億円超~5億円以下:19.4%
という結果です。
**株価が3億円から5億円もあるような相続でさえ、事業承継税制の適用割合は約2割なのです。**
もちろん、制度を使う必要がない場合や、そもそも適用対象にならない場合もあります。
しかし、税理士として現場で感じている、この制度の使いにくさとも無関係ではないように思います。
ちなみに、この数字を公表しているのは、ほかならぬ財務省です。
■ しかも、もうすぐ期限が来る!
現在の特例措置は、2027年12月31日で適用期限を迎えます。
特例承継計画の提出期限は、それより早い2027年9月30日です。
現行の特例措置をそのまま延長するのか、制度を見直すのか。
今後の事業承継を考えるうえで、非常に重要な問題です。
■ 政府税制調査会でも見直しの議論が始まっている
10月9日の政府税制調査会の専門家会合では、財務省、中小企業庁、日本商工会議所、日本税理士会連合会が、それぞれの立場から事業承継税制について意見や分析を示しました。
特に日本税理士会連合会は、興味深い提案をしています。
事業に必要な資産に対応する株価部分に納税猶予の対象を限定する一方、一定期間の事業継続後には、猶予されていた税金を免除する仕組みです。
いつまでも納税猶予を続けるのではなく、一定の条件を満たせば制度を完結させようという考え方です。
もちろん、対象を事業用資産に対応する部分に限定するため、現在の特例措置とは異なる制度になります。
しかし、長期にわたる納税リスクから後継者を解放しようという方向性は、注目に値すると思います。
■ 株価が上がっても、事業承継税制があるから大丈夫?
今回の株式評価の見直しについて、片山財務大臣は、事業承継税制の見直しと合わせて検討する考えを示しています。
つまり、評価方法の変更で株価が高くなっても、事業承継税制によって税負担を軽減するという考え方です。
一方、経産省は、株式評価と事業承継税制は本質的に別の問題であると指摘しています。
私も、この点は重要だと思います。
そもそも、すべての会社が事業承継税制を利用できるわけではありません。
利用するためのハードルが高いままでは、株式評価額が大きく上昇した場合の十分な解決策にはならないでしょう。
「株式をいくらと評価するのか」と「承継時の税負担をどうするのか」。
この二つは区別しつつ、「中小企業の円滑な事業承継を後押しする包括的で簡素な仕組み」を統合的に設計すべきだと思います。両者はバラバラに議論すべきものではないと思うのです。
次回は、この問題について各団体がどのような意見を表明しているのか、そして私自身の考えをご紹介したいと思います。