~中小企業の経営者の皆さんへ~
(全3回・第1回)
10月18日の日本経済新聞に「経産省が異例文書、国税庁案は政府方針に『逆行』 非上場株の評価で」という記事が掲載されました。
実は今、中小企業の経営者や後継者にとって、非常に重要な議論が進んでいます。
自社株の相続税評価の仕組みが、約60年ぶりに抜本的に変わるかもしれないのです。
■ 会社の株価が2倍、5倍になる可能性も?
国税庁の有識者会議では、現在の「類似業種比準方式」などを見直し、原則として「残余利益方式」という新しい評価方法に一本化する案が検討されています。
残余利益方式とは、簡単に言えば、会社の純資産を土台に、通常期待される利益を超えて稼ぐ力などを反映させて株価を計算する方法です。
利益を多く生み出す優良企業ほど、株価が高くなる可能性があります。
日本商工会議所の試算では、新方式の導入によって、株価が現在の2~5倍近くになる会社もあるとされています。
もちろん、すべての会社の株価が上昇するわけではありません。
しかし、利益を出している優良企業ほど、事業承継時の相続税負担が大幅に増える可能性があるのです。
今は相続の予定がないから関係ない、という話ではありません。
いずれ子供や後継者に会社を引き継ぐとき、その税負担が大きく変わるかもしれないのです。
■ 国税庁は、なぜ評価方法を変えたいのか?
そもそも、現行の評価方法にも問題があります。
会社の規模などによって株式の評価水準に不公平が生じていることや、評価方法の仕組みを利用した行き過ぎた節税が問題視されています。
会計検査院からも、会社規模による評価の公平性について指摘がありました。
税金の公平性を確保し、過度な節税を防ぐために制度を見直すこと自体は、当然必要なことだと思います。
問題は、そのために評価方法全体を抜本的に変更する必要があるのか、ということです。
■ 経産省が異例の反論!
今回の日経新聞の記事で注目したいのは、経済産業省が9月16日、国税庁に対して公式の意見書を提出したことです。
政府は、中堅・中小企業の「稼ぐ力」を強化し、成長投資や賃上げを促進しようとしています。
ところが、新しい評価方法では、経営努力によって利益を増やした会社ほど、事業承継時の税負担が重くなる可能性があります。
一方では「もっと利益を出せ」と言い、もう一方では「利益を出したら相続税が増える」。
これでは、経営者も戸惑います。
経産省は、この見直し案について、政府の政策方針に「逆行する」と指摘しました。
しかも、A4用紙3枚の意見書の中で、「逆行」という表現を3度も使用しています。
役所が別の役所の政策に対して、公式文書でここまで明確に異議を唱えるのは異例です。
経産省は、株価がどの程度上がるのか、どのような企業に負担が集中するのか、業種や経営状況に応じた具体的な検証が不十分ではないかとも指摘しています。
これは、非常に重要な問題提起だと思います。
■ 本当に「公平な評価」になるのか?
残余利益方式は、企業価値を評価する理論として、一定の合理性を持った方法です。
しかし、理論的に合理性のある評価方法だからといって、それが直ちに相続税の計算に適した評価方法だとは限りません。
特に、中小企業の自社株には上場株式のような市場がありません。
株価が高く評価されたからといって、その値段で株式を売却できるとは限らないのです。
経営権を維持するために売ることもできない自社株に、多額の相続税が課される。
この問題をどう考えるのか。
国税庁の有識者会議では、こうした論点も含めて、十分に議論してもらいたいと思います。
そして、今回の株式評価の見直しには、もう一つ重要な問題が関係しています。
「事業承継税制」です。
次回は、この制度の仕組みと、実際にどれくらい利用されているのかをご紹介します。