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株の承継は血の承継。中小企業の未来を左右する税制改正の行方

2026年10月25日

~中小企業の経営者の皆さんへ~

(全3回・第3回)

これまで2回にわたり、国税庁が検討している自社株の新しい評価方法と、事業承継税制の問題についてご紹介してきました。

今回は、経済界や国会で広がっている議論と、税理士としての私の考えについてお話しします。

■ 経済界や税理士会が声を上げ、大きな社会的議論へ

今回の一連の動きで、私がとても重要だと感じていることがあります。

日本商工会議所は、残余利益方式への抜本的な変更に明確に反対しています。

経済同友会も10月14日に意見書を公表し、企業の成長や事業承継への影響を懸念し、政府・与党による幅広い政策的検討を求めています。

日本税理士会連合会も、事業承継税制のあり方について、具体的な制度改革案を公表しています。

それぞれ問題意識や立場は異なりますが、経営者や税理士の声を代表する団体が、自らの考えを正々堂々と社会に向けて発信している。

私は、こうした動きを頼もしく感じています。

経済産業省も、国税庁の案に対して、あえて公式文書で異論を表明しました。

その結果、国税庁の有識者会議の中だけで進んでいた議論は、国会や政府・与党を巻き込み、社会的にも大きな関心を集める問題へと発展しつつあります。

税制は、国税庁だけで決めればよいというものではありません。

中小企業の経営者や後継者、そして実務を担う税理士など、様々な立場から意見を出し合い、納得できる制度を作っていく。

私は、こうした議論が広がること自体に、大きな意味があると思っています。

■ 議論は国会へ。首相は「ゼロベースで検討」

10月8日の衆議院本会議では、国民民主党の玉木代表がこの問題を取り上げました。

玉木代表は、日本商工会議所の試算を引用しながら、残余利益方式への変更はいったん凍結し、事業承継や企業の成長投資を阻害しない制度にすべきではないかと質問しています。

日本商工会議所の問題意識と重なる内容です。

これに対し高市首相は、現時点で結論や見直しの方向性は決まっていないとしたうえで、令和9年度税制改正に向けて「ゼロベースで検討する」と答弁しました。

国税庁の有識者会議で進められていた専門的な検討が、政府全体の政策課題として議論されることになってきました。

■ 私が一番大切だと思っていること

私は、非上場株式の評価の公平性を高め、過度な節税を防ぐこと自体は必要だと考えています。

ただし、会社の利益が多いことと、後継者が相続税を支払えるだけの現金を持っていることは、全く別の問題です。

中小企業の自社株は、上場株式のように必要なときに市場で売却できるものではありません。

ましてや、後継者が経営権を維持するために保有する株式です。

相続税を支払うために自社株や会社の事業用資産を売却しなければならないとしたら、それは何のための事業承継なのでしょうか。

私は、関与先の社長さんに、よくこんな話をします。

「株の承継は血の承継ですよ。中小企業は、そうやって100年継続することを目指すんです」

中小企業の株式は、単なる投資商品とは違います。

創業者が会社を立ち上げ、苦労して育て、次の世代へと引き継いでいく。

その積み重ねによって、地域の雇用が守られ、技術や信用が受け継がれていきます。

もちろん、だからといって自社株には相続税を課さなければよい、という単純な話でもありません。

しかし、課税の公平性を追求するあまり、真面目に利益を上げ、会社を成長させてきた経営者が、次の世代への承継に苦労する制度になってしまっては、本末転倒ではないでしょうか。

私は、株式の評価方法の合理性と、事業承継に対する税制上の配慮は、別々の問題として検討したうえで、全体として整合性のある制度にすべきだと考えています。

■ 次の注目点は、第6回有識者会議の議事要旨

今後、私が特に注目しているのは、9月16日に開催された国税庁の第6回有識者会議の議事要旨です。

この会議では、残余利益方式の具体的な計算方法や評価水準について検討が進められました。

国税庁の資料には、過去の利益をもとに将来の収益力を推計する考え方や、残余利益を5年程度加算する案などが示されています。

一方、経産省や日本商工会議所からは、新しい評価方法について強い懸念や反対意見が提出されています。

現在、会議資料や意見書は公表されていますが、議事要旨はまだ公開されていません。

私が知りたいのは、こうした意見に対して、会議でどのような議論が交わされたのかということです。

残余利益方式が、本当に相続税法上の「時価」を適切に表す評価方法なのか。

企業の規模や収益力によって税負担が大きく変わることを、どこまで具体的に検証したのか。

そもそも、残余利益方式への一本化を前提に議論を進めるのか、それとも評価方法の選択そのものに立ち返るのか。

議事要旨が公表されれば、委員の発言や議論の経過から、こうした論点について新たな手掛かりが得られるかもしれません。

もちろん、議事要旨だけで今後の結論が分かるとは限りませんが、ぜひ確認しておきたい資料です。

令和9年度税制改正に向けて、非上場株式の評価方法と事業承継税制がどのような方向に進むのか。

中小企業の100年先にも関わる問題として、引き続き注目していきたいと思います。