【第3回】1次審査で落ちる企業の典型例
〜定量評価は“数字の世界”。だから落ちる企業は決まっている〜
大規模成長投資補助金の1次審査は、「数字だけ」でふるい落とされる冷徹なステージ です。
書類や計画の出来栄え以前に、点数が足りない企業は容赦なく落ちる という仕組みになっています。
今回の第3回では、支援現場で見えてきた「1次審査で落ちる企業の典型例」6つ を整理したうえで、事務局が公表する 中央値の“正しい読み方” を解説します。
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1.はじめに
第2回では、採択企業の共通点(5つの条件)を解説しました。
しかし現実には、多くの企業が“書面段階”で落ちています。
1次審査は、企業の熱意や理念では評価されません。
純粋に 売上・雇用・投資規模・財務・投資回収性 といった数値情報の組み合わせでスコアが算出されます。
つまり、
数字が弱い企業は、どれだけ計画が立派でも1次審査で止まるという構造です。
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2.1次審査は“定量中心のスコアリング方式”
1次審査で評価される主な指標は次のとおりです。
・売上成長率
・売上増加額
・雇用増加数
・給与総額の増加
・投資規模
・財務の健全性
・投資回収性
特に重要なのは、
「指標同士の整合性」と「伸び率の必然性」 です。
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3.1次審査で落ちる企業の典型例(6つ)
典型例1:売上の伸びが弱すぎる
最も多い不採択理由です。
事務局の公表資料によれば、採択企業の中央値は
全社売上高成長率:年平均+17%
補助事業売上高成長率:年平均+26%
(引用:4次公募 各種指標の中央値PDF)
https://seichotoushi-hojo.jp/assets/pdf/4ji_median.pdf
という水準です。
このことから分かるのは、
“売上が微増”程度の計画では点数が伸びず、採択ラインに届かない
という現実です。
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典型例2:雇用計画が曖昧、または少なすぎる
雇用創出は1次審査で非常に重視される項目です。
採択企業の中央値でも、
従業員給与支給総額の増加額(+2.9億円) 、
年平均従業員目標賃上げ率(6.5%/年)
が示されているように、
雇用や賃上げが明確に組み込まれています。
「誰を」「何人」「なぜ採用するのか」
ここが曖昧な計画は得点が伸びません。
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典型例3:投資額と企業規模のバランスが悪い
次のような場合、採択は厳しくなります。
・企業規模に対して投資額が小さすぎる
・逆に企業体力を超えるような過大投資
・投資額に見合う売上増の根拠が弱い
この補助金は「成長投資」が前提ですが、
適正規模を外すとスコアが落ちる という特徴があります。
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典型例4:財務状態が弱く、実行可能性に疑問がある
審査員が非常に重視するポイントがこれです。
・債務超過
・赤字の継続
・自己資金不足
・銀行協調が弱い
こうした企業は、計画の説得力以前に
「本当に投資が実行できるのか?」 と疑われ、得点を落とします。
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典型例5:計画書の数字に一貫性がない
よくあるNG例を挙げると、
・売上は増えているのに、人件費が増えていない
・人を採ると言いながら、売上増の根拠が弱い
・投資額と売上増の因果関係が不明確
・数字同士がつながっていない
数字の整合性が崩れると、
“机上の空論”と判定され、1次審査で落ちます。
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典型例6:既存事業の実績が弱い
これは第2回の裏返しです。
・既存事業が伸びていない
・過去の売上が右肩下がり
・成長理由の説明が弱い
実績の裏付けがない企業は、
将来計画の説得力も弱くなり、評価が伸びません。
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4.中央値の“正しい読み方”
事務局の公表資料には、採択企業の中央値が掲載されています。
これは非常に有益な情報ですが、誤解も生まれやすい項目です。
ポイントは次の2点です。
① 中央値は「最低限クリアすべき基準」ではない
中央値は 採択企業の結果 を示す統計であり、
この数値を下回れば不採択、上回れば採択という“合格ライン”ではありません。
② 中央値ギリギリでは不利になる場合がある
たとえば、
・売上成長率
・売上増加額
・従業員給与総額の増加
などは、中央値付近だとスコアが伸びにくいケースがあります。
理由は、採択企業は中央値をやや上回る傾向があるためです。
つまり、
「中央値に届いた=安心」
ではなく、
「中央値+αを、無理のない根拠で示せる」
ここが重要です。
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5.1次審査を突破できる企業の“現実的ライン”
支援の現場の肌感覚では、以下の要素が揃うと突破率が高まります。
・売上成長率が中央値を明確に上回る
・雇用増の理由が論理的に説明できる
・投資額と企業規模に無理がない
・財務体力があり、投資実行が可能
・数字同士に一貫性がある
要するに、
「数字の必然性」と「根拠の説明力」が最重要
ということです。
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6.まとめ
1次審査は“数字の論理性”が問われるステージです。
典型的に落ちる企業には、
・売上の伸びが弱い
・雇用が曖昧
・投資規模が不適切
・財務が弱い
・数字の一貫性がない
・既存事業の実績が弱い
という共通点があります。
そして、
中央値は非常に重要ではあるものの、
“中央値に届けばOK”ではない。
現実には、
“中央値+αの計画”を、論理的に説明できる企業が通りやすい
という構造になっています。
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次回予告
第4回では、
「第4次公募 採択企業100社の定量分析」
を行い、採択企業の規模・従業員数・売上ゾーンを可視化します。
自社の立ち位置を明確にするための、
最も実務的な回になります。