第1回 大規模成長投資補助金とは何か
〜税理士として「現場目線」で語る、本当に大事なポイント〜
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金(以下「大規模成長投資補助金」)は、2024年の制度創設以降、その補助金額の巨額さから、多くの企業が注目するようになりました。しかし、制度の全体像は複雑で、名称から受ける印象以上に「経営の本質」に踏み込む補助金です。
私は普段、税理士として数多くの補助金申請を支援していますが、この補助金ほど「経営判断そのもの」が問われる制度は珍しいと感じています。
本記事では、第1回として「大規模成長投資補助金の正体」「他の補助金との決定的な違い」「誰が狙うべきか」を、一般論ではなく「現場視点」でまとめます。
1.大規模成長投資補助金の目的
大規模成長投資補助金は一言で言えば、
「売上・雇用・設備の三点セットで“事業の成長そのもの”を証明する補助金」
です。
よくある設備投資型の補助金とは違い、単なる機械購入や店舗改装では採択されません。
この補助金が本当に求めているのは、
「会社を“もう一段上のステージ”に引き上げられる経営者かどうか」
という点です。
たとえば、以下の要素は審査で極めて重視されます。
・売上はどれほど伸びるのか
・雇用は何人増えるのか
・地域にどんな外部効果が生まれるのか
・投資によって事業が「非連続」に成長するのか
補助事業というより、政策的には「企業の成長促進プログラム」といったほうが近い制度です。
2.対象となる企業の規模感
ここが最も誤解されやすいポイントです。
大規模成長投資補助金は「中小企業向け」と思われがちですが、実際の採択企業を見ると、
売上10億〜100億規模の企業が多数派 です。
また、株主構成に上場企業が入っている子会社でも応募可能であり(※要件を満たすことが前提)、中堅〜中規模の企業が積極的に活用しています。
つまり、
「中小企業が設備を少し更新するための制度」ではなく、
「事業ステージを一気に変えるための制度」
と捉えるほうが正確です。
3.この補助金が「難易度が高い」と言われる理由
理由はシンプルで、次の二つに尽きます。
「定量審査が極めて厳しい」
「面接(2次審査)の難度が高い」
まず、1次審査では数値評価により“足切り”が行われます。
売上や雇用の伸び率、投資回収性、財務安全性など、冷徹なスコアリングでふるいにかけられます。
そして2次審査では、社長自身のプレゼン能力と論理性が徹底的に問われます。
形式上は「15分プレゼン+45分質疑応答」ですが、実質は次のようなものです。
・経営の本質を理解しているか
・自社の事業モデルを正確に説明できるか
・補助金に依存しない成長ストーリーになっているか
これは、一般的な補助金の審査とはまったく異なる構造です。
4.他の補助金とどう違うのか
大規模成長投資補助金は、新事業進出補助金やものづくり補助金とは明確に異なります。
〇 新事業進出補助金
「新市場で新しい事業に挑戦するための補助金」。 中小企業対象
良い意味でも悪い意味でも有名な事業再構築補助金の後継補助金。
当初はコロナ禍対策という政策目的があったものの、
現在は新たな事業分野への展開を促進という目的のみになっており、
今後他の類似の補助金との統合が検討されるのではないかと予想します
〇 ものづくり補助金
「設備の高度化や生産性向上のための補助金」 中小企業対象
長い歴史のある補助金。
制度運営も安定しており規模の小さな企業でも
ビジネスモデルの革新性や特筆すべき技術があれば採択されやすい。
事務局の対応も非常によい補助金。
〇 中小企業成長加速化補助金
「年商100億円をめざす企業の設備投資を支援するための補助金」 中小企業対象
2025年9月に第1回公募の採択発表あり。
まもなく第2回公募が開始となる見込み(2025年12月現在)
〇 大規模成長投資補助金 従業員2,000人以下であれば上場企業を含む大企業も対象
「確固たる事業基盤を有する企業の飛躍的成長と賃上げを実現させるための補助金」
つまり、例えば新事業進出補助金が「戦略転換」なら、
大規模成長投資補助金は「事業拡大の加速装置」として位置づけられます。
経営者が補助金を選ぶ際には、この「思想の違い」を理解することが重要です。
5.どんな企業が狙うべきか
私が支援する経営者の中で、採択率が高いのは次の条件を備えている企業です。
・すでに一定の売上・利益水準がある
・人材採用を拡大したい明確な理由がある
・大型投資に対して中長期の計画を持っている
・社長自身が「自社を語る力」を持っている
逆に、次のようなケースは厳しいです。
・補助金がないと計画自体が成立しない
・説明資料の数字が曖昧
・面接で事業を語るのが苦手
・そもそも経営計画が存在しない
大規模成長投資補助金は、経営者の「器」を試される制度と言っても過言ではありません。
6.これからの記事の構成について
本シリーズでは、次の順番で解説を進めます。
第2回 採択された企業の「共通点」
第3回 1次審査で落ちる企業の典型例
第4回 採択企業100社の定量分析(業容・業種・100億宣言)
第5回 2次審査(面接)の突破ポイント
第6回 売上計画・雇用計画の正しい作り方
第7回 不採択企業のよくある誤解
第8回 採択されるプレゼン構成(15分版)
第9回 申請書の文章でやってはいけないこと
第10回 審査員の視点で見る“強い計画書”と採択される社長の条件
このブログは、制度の「説明」ではなく、
「現場で採択・不採択を見てきた税理士の視点」
から本質を伝えることを目的としています。
まとめ
第1回は、制度の全体像と思想をお伝えしました。
大規模成長投資補助金は、単なる補助金ではなく
「経営者が、自社の成長物語を明確に描く場」
と言っても過言ではありません。
次回は、採択企業に共通する「本当に重要な特徴」を具体的にまとめていきます。
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